短冊

 今朝は、芽生の市主催歯科検診へ。広いプレイルームに案内され1歳半の栄養指導や歯磨き指導を受ける。
 芽生は指導員の話しなんかよそに、プレイルームで大はしゃぎに走り回っている。端から端まで、元気いっぱい。多少、他のひと達の迷惑になりそうだけど、私はそんなことは気にもせず、その楽しそうな姿を眺める。
 保育園ではこんなふうに自由に遊んでいるんだなぁと微笑ましく思う。

 そのまま保育園に送ったあと、突然修ちゃんから電話があり、7月13日に手術が決まったとのこと。「なに??、なんで手術ってことになってるのか? 日にちも近いし。」
訳が分からないまま電話を切る。


***


 私は修ちゃんの入院以来、鼓膜がパカパカいっているような症状があり、心配で耳鼻科を受診する。過度のストレスの症状との診断。身体は正直だ。気休めにビタミン剤ぽいものをもらう。

 夕方、病院に行き、手術のことについて聞くが、修ちゃんはその内容、その理由などほとんど把握していない。ただ、日程のみ伝えられたようだ。

 トイレに行こうと廊下に出ると、主治医の一人がいる。慌てて呼び止めると、「あっ」というような顔をし、とても事務的でぶっきらぼうな言い方で、
「まだはっきり病理が出てないんですけど、悪性の可能性があるんですよね。なんで緊急に手術の日を決めました。先まで手術室がつまっているけど、無理矢理その日にいれたんです」と。

 そう言われるものの、あまりの衝撃に頭が真っ白になり、理解しようとしてもできない。
 なぜ、そんな重要で深刻な話しをトイレの前で、立ち話で軽々しく言うのか、、、。もう少し言い方とか、配慮とかしてくれるべきではないのか。

 その一言で一気に悪い想像は膨れあがり、全身に力が入らない。

 
 しばらく呆然とする。
 重い腰をやっとあげ、ジュースを買って、修ちゃんのところにできるかぎりの笑顔で戻った。その主治医に言われたことにはいっさい触れない。口にもしたくない。

 保育園の七夕の笹に飾る短冊に、お願い事を修ちゃんにも書いてもらう。不器用そうに筆圧を込めて書いている。
 

 日も暮れ、病室をあとにし、今日主治医に言われたことに取り憑かれながら帰る。
「悪性って、どういうことだ。治らないってことなのか。手術ってなんだ? 緊急を要する事態なのか?」
 脳腫瘍についてほとんど知識がないので、乏しい想像力で悪いことばかり邪推してしまう。知識が無いと判断力もなくなるので良くないかもしれない。

 こんな精神状態では芽生の前で泣いてしまうので、芽生が寝る時間を見計らって帰ることにする。
 電話口で私の落ち込んだ様子をすぐに察していた母は、心配そうにしている。

 帰宅後、主治医に言われたことを泣きながら話す。母も泣いている。
 そして、修ちゃんが書いた短冊を見て、またふたりで大泣きする。

「 芽生とママとトッチャでずっと仲良く暮らせますように 」と。