外泊2日目

 
外泊二日目。7時30分くらいまでたっぷり寝、「ママっ」という芽生の声で目が覚める。
 芽生はすっくと立ち上がり、トッちゃのほうへ行き、顔を覗き込んでいる。少し前までは、こんな光景、毎日のことだったなぁ。
 そして、毎朝毎朝、幸せな気持ちで目が覚めたなぁと。はかないものだ。
 でも、今日は、そんな日常が戻ってきている。本当に嬉しい。


 芽生は朝からたくさん朝ごはんを食べ、元気に遊び回り、先週とっちゃと一緒に買った水色の可愛いいワンピースを着る。とってもよく似合う。ますます剛力彩芽に似ている、と親バカ全快。

 昨晩泊まりにきたヒロミも起きてきて、朝食を食べながら、楽しく団欒。
 先週の外泊のときは、まるでお通夜のように落ち込んで過ごしていたものが一変、S島先生の説明の日以来、すっかり前向きにやる気が出てきているので、

 私も修ちゃんも「絶対に勝つ!」と連呼し言い聞かせている。
「絶対に勝つ!」と有名な書道家にでも書いてもらって、壁に貼付けたい気分だ。

 ヒロミも「今日はいつものこの家に戻ってる!」ととても安心して嬉しそうにしている。
 その通り、ついこないだまでは、楽しく笑いの絶えない団欒は当たり前のことだった。


 昼過ぎに兄夫婦がヒデとりんちゃんを連れてにぎやかにやってくる。今回、病院と名医を探してくれ、KT病院に強引にも転院できたのも、すべて兄とユキさんのお陰だ。
 彼らの冷静な判断と強引で猛進な行動力がなければここにはたどり着かなかった。感謝してもしきれないくらい感謝している。頼りになる兄夫婦がいてくれて幸せだ。ありがたい。
 
 いとこ3人、仲良くじゃれ合って遊ぶ。皆、幼いので意地っ張りになる時もあるけど。
 芽生もヒデとリンちゃんとの遊びに夢中になり、ママもトッチャも目に入ってないようだ。こんなふうにして子ども同士で遊ぶ光景、なんとも微笑ましく、何枚も写真に収める。

 夕方になって一時帰宅していた母が金沢から帰って来る。いつもの強気と元気の良さで、修ちゃんを激励している。
「少しの間休憩すると思って、のんびりやりなさいね!」と。
 修ちゃんも力一杯、
「ありがとうございます。」と深々の頭を下げている。

 トッチャは、芽生との遊びに後ろ髪引かれるが、病院に帰らなくてはならない。
 カンのいい芽生は、私達がでかける間際に、トッチャに抱っこをせがんだり、足にまとわりついて離れない。トッチャがハンチング帽をかぶろうとすると、すぐに頭から取り上げたりしてふざけている。確実に何かを察している。

「大丈夫、大丈夫、ちょっとお出かけしてくるだけだよ」と言い聞かせ、振り向かないように玄関を出た。
「絶対に勝つ、絶対に戻る!」と修ちゃんも私も強く強く思いながら、涙をこらえて歩く。

 井の頭通りをまっすぐの送り道風景がけっこう好きで、できるだけ楽しもうと思いながら運転する。
 修ちゃんのミュージックセレクトはジョアン・ジルベルト。ささやくような歌声が車内を包み込み、心地いい空間。

 戦中の召集令状よりはましだ、玉砕せよといわれるよりはましだ。
 まだまだ戦う余地はあるのだ。