術後の心配

 手術から一夜明け、ホッとした気分で朝を迎える。

 早めに仕事を切り上げて、父と待ち合わせて病院へ急ぐ。ひとりで行ければいいのだけど、正直なところ常に誰かについていてもらいたい心境だ。恐さと不安が常につきまとっている。

 バスに乗る前に病院(看護婦さん)から急に電話がある。「何事か!」とかなり焦るが、
ICUから病棟に移りました。」と。えーー、早い!すごい。
「状態はまあまあ安定しているんですけど、ご本人が今日は気持ち悪くて全く相手が出来ないので、お見舞いに来なくてもいい。昨日も手術で疲れているだろうから、家でゆっくりやすんで欲しい、とのことです」
と。

 もー、まったく、それだから泣かせるんだ。そういうヤツなんだ。本当に男気のある優しいヤツなんだ。

 そんなメッセージをよそに、
「いいえ、顔見に行くだけだから、おかまいなくと伝えてください」と返答したら、看護婦さんが笑っていた。

 かなりの不安を胸に病室に入ると、頭も体も硬直させて、まっすぐ上を見ているような見ていないような姿で寝ていた。
「おー、ありがとな。お父さんもすみません」と相変わらず。

 瞼が閉じないようで、タオルを目にかけている。タオルを取ると、右目が全く動かず中心に寄っているように見える。顔はパンパンにむくみ、左目も視点が全く合っていない。昨日の今日とはいえ、ある程度覚悟はしていたとはいえ、変わり果てた姿にショックを受ける。ものすごくショック。吐き気と頭痛もかなり厳しそう。

 ショックを悟られないように、明るく明るく努めて、
「ぜんぜん気にしなくていいからね。何もしゃべらなくていいからね。自分のいちばん楽な状態でいてね」
と声をかける。

 時々水を欲しがるが、飲むとすぐに吐いてしまう。水をのむコップもほとんど見えてないようで手探りで探している。

 述前に一時的に視野が狭くなるかもしれないとは聞いていたけど、そのせいなのだろうか。不安な気持ちがいっぱいで、いったん外に出る。ロビ―で父と話しながら、思いっきり泣いてしまった。
大丈夫なのか、ちゃんと元にもどるんだろうか、、、修ちゃん。

 父も言葉を選びながら、
「手術後すぐだから仕方が無いよ、2、3日もすれば良くなるさ」
と励ましてくれる。でも、不安な気持ちは消えない。

 意を決し、病室にもどる。また、何事もなかったように明るくつとめ、芽生の話しをする。それには修ちゃんもとても嬉しそうで、受け答えもはっきりとしてくれる。やっぱり芽生の力は絶大だ。

 さすがに今日は不安なのか、「てって」と言って手を差し出す。
「おー、甘ちゃんだね」とわざとふざけて答え、しっかりと握る。手を握りながら沈黙したり、芽生の話しをしたり。そして良くなれ良くなれと握る手に念を込めた。

 看護婦さんが来て、食事はどうしますかと聞かれる。
「夜はパスだけど、朝はパンにしてください。やっぱり朝はパンがいいなぁ」
としっかり主張。ははは。はじめて笑えた。こんなときでもとてもマイペースで修ちゃんらしい。

 状態の不安はあるけれど、修ちゃんらしさが垣間みれて、少し安心して病室を出た。