昨日よりも

 昨日のショックで、あまり眠れず、悪いことばかり考えて一夜を過ごしてしまった。

 あまり考えないようにしようと、午前中、仕事に集中する。芽生はジジババと成蹊大学に遊びに行ったり、ゆうちゃん(妹)の物件を見に行ったりしている。

 今日も、父同伴で病院へ。五日市街道を高円寺の方に抜け、ここは修ちゃんと何度も何度も往復した場所だなぁ、、、とか、いっぱい車のなかで話しをしたなぁ、、、とか、ライブをよく見に来たなぁ、、、とか、ここのステーキ屋で食べ過ぎてお腹がパンパンになり、Tシャツがはち切れそうで大笑いしたなぁ、、、とか、急にいろんな思いで一杯になり、運転しながら泣いてしまう。父は声も出せずにただじっと私を心配している。

 病院に行く前に神楽坂の鍼灸院エコパオさんに水素水の棒を買いに少し寄る。久々にともこさんに会い、親身になっていろいろと話しを聞いてくれ、ありったけの言葉で優しく暖かく励ましてくれる。そしてお見舞いに水素棒をいただく。本当にいい人だ。
 そして先生も出て来て、大変だったね、とまた優しく声をかけてくれる。病気の説明をすると、事態の深刻さを理解し、神妙な顔をしている。
「近々お見舞いに行くからね。出張で治療もできるから」と言ってくれた。
 心から心配してくれている。本当にありがたい。
 そして、あらためて、「芽生ちゃんの力は絶大だからね」と諭してくれた。

 今日は昨日よりは良くなってますようにと念じながら、病室に入る。
 昨日の硬直した体は、横向きになって寝そべっている様子で、少し安心する。昨日よりは顔色も多少良く、状態も少しは良く見える。が、本人としては、まだまだ吐き気が強くて、それほど変わってないとのこと。
 目は相変わらず不自由な感じだ。直視すると泣いてしまいそうで、なんとなく外を見たりして自分をごまかす。私のこともそんなによく見えてないのだろう。

 水素棒を入れていくつか水素水を作りおきする。せっせと作業をしていないといたたまれない気分で、時間をかけて丁寧にやる。ほかに何かやる事はないか、、、と見渡したり。

 あまりドタバタしているのも悪いから、座って手をさすり、芽生の話しをする。つとめてつとめて明るく。昨日よりは、ずっと受け答えがしっかりしている。良かった。ちゃんと話しができることだけでも感謝しなくては。

 やはり気になるのは目だ。視点はまったく合わず、周囲も見えていない。手術で一時的に不自由になっているのか、それとも腫瘍のせいなのか、などとどうしようもない邪推をしてしまい、不安で不安で自分が嫌になる。

「今日からロンドンオリンピックだよ。開会式でポールが『HEY JUDE』唄ってたよ」
というと、
「あー、そういえば、そんなこと言ってたなぁ。楽器は?」
と聞かれ、
「ピアノ引き語りだったよ」と答えると、
「ふーん」と。

 なんでも無い会話だけど、いつもの修ちゃんと私の会話。こういうやり取りが幸せなのだとしみじみ思う。

「明日はもっと早く来るからね」というと
「わるいね〜」と。
わるくなんかないよ、馬鹿者。

 家に帰ると、芽生がバアバと唄を歌っている。平和で可愛らしい光景。一気に癒され元気を取り戻す。ひとしきり遊んだあと、嫌がる歯磨きをして、逃げられる。