修行僧


 保育園生活のおかげか、芽生は決められたことをちゃんとできるようになっている。
 出かける前には「ぼうしは?」と言って帽子をかぶり、「クック」と言って靴を履き、「ババーイ」と言って出かけ、エレベーターにおとなしく乗り、自転車置き場までまっしぐらに歩く。保育園に着くと、自分の下駄箱にくつを入れる。たまに場所を間違えるけど、ほぼ的確。教室までワクワクしながら小走りし、仲良しのリンちゃんとおはようのハグをする。
 いつのまにか、こんな風に規則正しい生活ができるようになっている。ものすごい成長だ。
 修ちゃんが「エライなぁ、メイは〜!」と言って頭をなでなでしているのが目に浮かぶ。

 今日は直行仕事を済ませ、少し早めに病院へ。

 病室へ入ると、すっきりと頭を丸めた姿で修ちゃんが横になっている。手術の際に後ろ側を大きく剃ってしまったので、全体をきれいに合わせて丸刈りにした。髭もきれいに剃って、10歳以上若返っている。入門したての修行僧のよう。とっても似合うじゃないか!

 すぐに千恵ちゃんとヒロミもやって来て、「似合うじゃーん!」と修ちゃんの丸刈りに声をあげる。看護士さんや先生たちにも評判が良く、修ちゃんも気を良くし
「これからは、坊主でいくかなぁ」と嬉しそうにしている。
 昨日よりもずっと表情も明るく、私も明るい気持ちになる。毎日いろんな変化で気持ちの持ちようがコロコロと変わるものだ。

 放射線治療とテモダールによる吐き気もまだ無いようで、夕飯のハンバーグもよく食べている。
「トマトソースのチープな味が、もたれるなぁ」なんて、ずいぶん余裕のあることを言ったりして。修ちゃんらしいコメント。
 そして、
「今日は、女性陣に囲まれてうれしいなぁ。」と終始ご機嫌。今日はいい日だ。

 千恵ちゃんが「こないだ来たときより、ずっと調子良さそうだよ」と言ってくれる。毎日見ていると変化に敏感になりすぎるが、しばらく期間をあけて見ると、大きな変化を感じるのだろう。客観的な意見に励まされる。

 ロビーから見えるオリンピック電飾の東京タワーを、婦長さんとみんなで見に行く。白、赤、青、緑の電飾がパリっぽくてオシャレだ。

 修ちゃんは、視点が合わないので片目ずつ見たりして工夫して眺めている。真剣なその姿に、胸が熱くなる。
 こうやって歩いて夜景を見に来れるようになったことが、あまりにも嬉しくて泣きそうになる。

 修行僧の闘病生活はまだまだつづくが、毎日すこしでも喜び、笑って過ごしたい。