それぞれに

 お盆休みがあけ、芽生は久しぶりに保育園へ。教室に入り大好きな先生を見つけると、私のことを置き去りに、先生に手を伸ばして嬉しそうに抱きついている。少し寂しい気持ちになるが、芽生にも保育園の世界があるので、その世界があることをむしろ頼もしい思うことにする。
 大好きな先生に抱っこされ、満足そうに私にバイバイをする。私も笑顔でバイバイして会社へ急ぐ。

 明日から出張のため、準備に追われバタバタと過ごす。そして、修ちゃんの病気騒動のなか、必死で仕上げた新刊が出来上がりほっと肩の荷が降りる。
 あっという間に夕方になり、病院へ。

 修ちゃんは今日もわりと調子が良さそう。ジャージにコーヒーの染みが大きくついていたので、すぐに洗おうとすると
「3時間前くらいについたから、落ちないかも、、、」と。
落ちるとか落ちないとかよりも、3時間前という時間軸にそった記憶が持てていることに驚く。数日前までは、1時間前のこと、30分前のことのことすら怪しかったのに。記憶力が戻ってきていると確信する。嬉しくて思わずにやりとする。

 先生達が回診に来て、目の調子を診察するが、動きも徐々に良くなってきているよう。両目の動きが揃わないことが原因なので、あまり不便な時には、眼帯をして片目でみるとか工夫すればいいと助言される。
 体力が回復してきているぶん暇を持て余しているので、そろそろ本を読んだり、携帯を見たりしたいようだ。
 ならばと思い、すぐに売店で眼帯を買ってきて試してみると、バランスが良くなったようで嬉しそうにしている。

 しばらくしてヒロミも到着し、三人でいつものように談笑。くだらない話しばかり。 修ちゃんは看護士さんについてよく話し、
「あの人は吉祥寺北町二丁目に住んでいる(*うちの近所)」とか、「あの人は高橋秀樹といって、英樹ではなくて、西城秀樹のほうの秀樹だ」とか、暇なおばさんみたいに情報を仕入れている。
 そんなことができるようになっていること、やっぱり記憶力が復活している証拠だ。一時はあんなに心配していたのに、やはり脳の回復力はすごい。

 少し前までは、明日からの出張も気が進まず、修ちゃんと芽生を置いて行っていいのかと悩んでいたけど、芽生にも保育園の世界があるし、修ちゃんにも病院での世界があるし、私は私の仕事をちゃんとしようと思い直した。