原人力


 芽生は寝起きにたいてい誰かの名前を呼ぶ。ママだったり、バアバだったり、トウだったり。今日は何て言うのかじっと待っていると、「エミッ」と言う。そういえば、昨夜も「エミエミ、エミエミ」言ってたなぁ。
 エミちゃんは同じクラスの唯一芽生より月齢の低いお友達だ。1歳くらいだと、生まれ月で全然発育が違うのだけど、ほとんどの子が芽生より生まれが早く、芽生はクラスのなかでもチビちゃんのほう。
 最近、連絡帳に、「エミちゃんにクジラのオモチャを貸してあげてました」とか「エミちゃんに奇妙な形の毛糸の玉をあげようとしたら、逃げられてしまいました」とか書いてあった。エミちゃんは自分よりも小さくて、まるで子分のように思っているのかな。とにかくエミちゃんが気になるようだ。

 今日は、出張以来の代休。いいかげん疲れもたまっているが、休みの日にしかできないこと、保険の申請とか傷病手当の申請とか一気にかたずける。修ちゃんが図書館から借りっぱなしで返却催促に苦しめられていた、トムウェイツの辞書ぐらいある分厚い自伝も、やっと返すことができた。

 一ヵ月ぶりの連載、「バガボンド」収録のモーニングを買って夕方病院へ。
 修ちゃんは寝っころがって空をみながらラジオを聞いている。のんびりしてていいなぁ。武蔵が表紙の「モーニング」を見せると「おおっ!」と嬉しそう。なにしろ私達は井上雄彦の大ファンだから。

 しばらくして千恵ちゃんも来る。三人でシュークリームを食べながら、いつものように談笑。
 ふと気がつくと、修ちゃんのおでこや肩に細かい毛がついている。よく見ると枕付近にも細かい毛がついている。放射線治療の影響で、少し髪の毛が抜けてきているようだ。いろいろ副作用が出る頃なのかもしれない。
 他にはこれといった症状はなさそうだけど。髪なんてまた生えてくるし、坊主にしといて助かったといったくらい。

 視点の合わなさは相変わらずのようだけど、二重のものがより中心に近づいてきているとのこと。そろそろピタッと合ってほしいところだ。その点については、修ちゃんも敏感になっている。そりゃ、目を開ければ不自然な世界に見えるのだから、ストレスも溜まるだろう。

 そうこう言いながらも、術後目覚ましく回復しているのは、やっぱり基礎体力があるからだよね、と三人で話す。昔、「修ちゃんは木の根っこを食べていた原人に顔が似ている」と言われたことがあるのだけど、そのとおり原人的素質がある。強靭な体力を持つ父親譲りだ。『原人力』とか書いたらベストセラーになるかもしれない。

 今日はわりとゆっくりと過ごし、三人でよく笑った。同部屋の人に迷惑なくらいだったかも。笑うことで免疫力が上がり病気治癒につながるという。そのへんは我々はいつも実行しているので、効果が期待されるかな。
 福西さんにいただいた『笑いと治癒力』を読み始めよう。