ゆっくりと


 書くことに躊躇していた数日。自分の気持ちや家族のことを書く勇気、体力。
 先日友人に「記録することがとても大事だ。とくに病気を体験しているときは、時に振り返ることが大事だ」と言われた。
 確かに読み返すと、病気発覚以来、夫や自分や家族の一心不乱な頑張りが昨日のことのように蘇る。そんな風に思い返すことができると、更に頑張れる気がしてくる。

 夫の病気が快復し、いずれ、この日記が単なる「子育て日記」となることを願いつつ、夫と私と芽生の状況をやはり書いておこう。

 先週金曜、いつものように芽生を保育園へ送りに行く。芽生は教室へ入るなり、動物カードの恐竜(テラノドン)を見て、「ピッピ」と言っている。確かに空を飛べる恐竜だけど、「ピッピ」といわれるにはちょっとゴッツイかな。

 相変わらずの可愛い言動に微笑みながらの帰り道。我先にと猛スピードでこいでいた自転車が転倒し、太もも、ひじ、おしりが大きな打ち身となってしまった。狭いところを前からくる歩行者と私のスレ違いざまの事故。理由や言い分は双方にある。けど、水掛け論。
 痛いやら、悲しいやら、、、それより何より、芽生が乗っていなくて良かった。想像しただけで、涙が出てきた。
 毎日、息つく間もなくフル稼働で動いている。保育園、会社、病院へといつもいつも急いでいる。一分でも早く。
 本当に痛くて悔しいけど、教訓を得るしかない。
「そんなに急がずに」と。

 あちこちの痛い打ち身を抱え、週末を過ごす。
 夫の術後第二回目の外泊、無事成功。第一回目の外泊はかなり疲れたようだったけど、今回はまるで別人。シャバの人間に近づいてきたようだ。目の調子が悪いためあまり外に出たがらないけど、大学までみんなで散歩に行ったり、美味しい(?)手料理もたくさん食べてくれたり。本人も少し自信がついた様子。それこそゆっくりでいいのだ。


 昨日、久しぶりに夫と私の共通の友人JOEさんに会う。久しぶりの再会なので、とびきりの笑顔で会おうと思っていたのに、遠くからJOEさんの姿を見つけたとたんに、涙が溢れた。でも、がんばって笑った。泣き笑いは変な顔だっただろう。
 ゆっくりと安心しきって話す数時間。夫のことを心の底から愛おしく思い快復を願ってくれている。そんな人たちがいてくれる幸せ。
 大宮八幡の可愛い可愛いお守りをいただく。私の分まで。鳩が2匹、仲良さそうに向かい合っている絵柄がたまらない。自分の分はすぐに鞄にくくりつけた。
 ここのところ、いろいろな人からお守りをいただくが、どれもデザインが個性的で素敵。


 今日は夕方から夫の様子を見に病院へ。夫はぼんやり雲を眺めている。病室からの眺めは最高で、レインボーブリッジと東京タワーにスカイツリー、高層ホテル群を背に、もくもくと緑が生い茂っている。目のリハビリにはもってこいの景観。

 相変わらず目の調子の悪さをうったえている。良くなってきている故の、不釣り合いなのかなんなのか。「この目を治さないことには、仕事になんないよなぁ〜」と焦りを見せている。そんなに焦るな。ゆっくりでいいのに。
 そして、放射線の影響で、頭皮粘膜が痛いらしく、軟膏をいくつかぬっている。せっかく似合っていた坊主頭も、あちこち毛が抜けてバランスがめちゃくちゃ悪い。いよいよニット帽をかぶることにするが、ニット帽もよく似合う。修ちゃん度が増す。


 帰ると、芽生が夕飯を食べ過ぎたようで、お腹をパンパンに膨らませて、「ママだー」と走って飛びついて来た。可愛い子ダヌキちゃん。
 私が芽生の好物の素麺を食べてると、口をとんがらせてスルスル麺を吸うような仕草で寄ってくる。とんがり口の子ダヌキちゃんが可愛くて、素麺をあげると「おーいしーい」と満面の笑顔で喜ぶが、バアバに「芽生ちゃん食べ過ぎよ〜!」と一喝され、おあずけとなってしまった。
 もっと早く帰ってこれれば、一緒に食べられるのになぁ、、、と。

 まさにこの気持ちなんだ。
 一分でも早く芽生に会いたい、一分でも早く夫に会いたい、と思うから毎日我れ先にと急いでいる。
 自転車で転ぶのも仕方がない。