即興型


 開頭手術をしているから、やはり、術後の後遺症が気になり小さなことでも手術のせいか、、、と思うことが度々ある。

 このところ快復傾向にあるので、夫は身の回りのことは自分でほとんどできるようになっている。そして、感情的にも豊かになってきている。
 大笑いすることもあり、ときには饒舌に話すこともあり、興奮することもある。会話の途中でも自分勝手に突然話題を変えることもある。天然娘みたいに無神経だなぁと思う事もあるけど、それもこれも快復し、上昇気流に乗っている自分が嬉しいからかもしれない。
 病気発症以来、口には出さないが、自信喪失しているのは痛いほど分かっていた。気弱になるのはあたりまえ。そんな夫が自信を取り戻してきていること、何よりのことだ。身体はおろか、心の傷も治癒していかなくては。
 夫が本来の夫らしさを取り戻し、プラス今回のこの体験でどんな人間になるのか、どんな父親になるのかが楽しみだ。


 記憶について、まだ不安定なところもある。リハビリでは、作業療法、言語療法で記憶訓練を厳しくやっているようだ。
 聞くに、とても難しそう。15個ランダムな言葉を覚えて、複雑なゲームや作業を挟み、再びその15個を答える。
 そんなの健常者でもできるわけない。でも、彼はいいところまで行くようだ。本来、脳トレみたいなことが得意なところもあるからかもしれない。
 そうかと思えば、話しをているとぽっかり忘れているようなこともあり、少し焦ることも度々ある。まぁ、いちいち気にしていてもしょうがないというか、40代半ばのおじさんに完璧な記憶力を求めるほうがナンセンスなのだが。
 なんでも病気に結びつけられて、きっと迷惑だろう。


 術後、第3回目の外泊。3回目ともなれば、かなり調子が良さそう。視点のブレがなぁ、、、と相変わらず煩わしそうにしているが。
 車で家に帰っている途中、夫はどうしてもトイレに行きたくなり、パチンコ屋に入る。ちゃんと帰ってこれるか不安に思いながら車で待っていたが、余裕の表情で戻ってきて、私もヒロミも安心する。「ひとりでできた!」なんて、子どもを心配するような気持ち。

 家に着くと、芽生が大喜び。それこそ、「こんなこともあんなこともメイチャンできるようになったのよ!」と言わんがばかりにトッチャにいろいろ披露している。
 興奮し続けて汗びっしょり、水をかぶったみたいになっている。

 大好きな絵本『よあけ』を持ってきて、トッチャに読んでもらう。夫はわざと情緒的に読み、合間に「メイ、ピアノ!」というと、芽生はキャーと興奮しながらトイピアノをパンパン叩いて弾き、物語を盛り上げる。
 まるで朗読と即興演奏のよう。その芽生の合いの手がなかなかセンスがいい。
 このふたり、やっぱり最強。無敵の即興型親子だ。