面白い患者

 芽生は最近、身体もずいぶん大きく成長してきたが、心もずいぶん成長している。それほどダダをこねたりするほうではなかったのだが、最近は遊びを阻害されると、ヘソを曲げるようになってきた。
 朝の忙しい時間帯、昨日は保育園に行く前に拾った石を取り上げると怒りながら泣き、今日は自転車の鍵で遊んでいたところを取り上げると怒りながら泣き、あげく、ママにバイバイもしてくれず、プイっとする。
 小さい子が小さな抵抗をしているのが、面白くもあり、どんどん子どもらしくなってきていることに驚く。
 楽しい時には思いっきり笑い、嬉しいときには思いっきり喜び、頭にきたら思いっきり怒って欲しい。この調子で、感受性豊かに。

 夫は、手術後五分刈りくらいの坊主にしたのだが、放射線治療の影響で、両サイドとてっぺんがきれいに脱毛した。ちょうど放射線の通り道があぜ道のようにきれいな抜け方。モヒカン的でまるで体をはったお笑い芸人みたい。
 電撃ネットワークみたいで面白いと盛り上がっていたが、先日、再びきれいに剃りそろえた。ほぼスキンヘッド。
南部虎弾から修行僧に戻る。最近は血色も良くなってきたからむしろ少林寺拳法か。とにかく坊主が似合うということだ。

 今日はベッドを覗くと、スキンヘッドにサンバイザーをして、ジャージを着て横になっている。なんだ、この病人!と大笑いしてしまう。
 「このほうがしっくりくるよね」と、、、意味がよく分からないが、相変わらず面白い人だ。

 リハビリで体力と知力を使うので、適度に疲労している。
 そして「目がなぁ、ひどいんだよなぁ」と。なかなか揃わない視点二重生活にも疲れてきているようだ。
 「まぁ、そのうち良くなるよ。ここまで良くなってきたんだからさ」と言いながらも、私ももう一歩の進展を願い焦る気持ちも否めない。

 今日もふたりでたくさん話しをする。私達はとにかくよく話しをする夫婦だ。そして私は、夫の意外性のある独特なコメントを聞くのが好きだ。
 芽生のこと、仕事のこと、音楽のこと、ラジオのこと、家族のこと、友達のこと、マンガのことなどなど、それに今は病気のことも加わり、話題が尽きる事はない。

 高橋幸宏のトリビュートにトッド・ラングレンが参加してる情報を教えると、目を輝かせている。「トッド・ラングレンは最高だもんなぁ」と。
 そして、病院の廊下を、スキンヘッドに帽子をかぶり、
 「トッド・ラングレンとアンディ・パートリッジとフランクザッパは三大奇才ミュージシャンだよなぁ。そんなかだと、やっぱりトッドだよなぁ」と、嬉しそうに大声で話しながら歩く。
 奇妙な患者だ。
 音楽好きがこれ幸い。病気なんかどうでもいいような気分になる。ほんのひととき。