少しのブレーキ


 昨日、夫の外来診察。芽生を母に託し、MRI検査のために早朝に出かける。

 朝一番にMRIを撮影をしたあとの診察までの待ち時間、夫は床屋に行き、最近、和田勉みたいな面白い髪型になっていたのを、一分刈りの坊主頭にする。
 再び修行僧に戻る。

 MRIの結果を一緒に聞きたいと母も駆けつけ、三人で診察に呼ばれるのをひたすら待つ。待ち時間は長く長くかかり、予定時間を1時間以上も過ぎても呼んでもらえない事に、だんだん不安が募ってくる。
 結果が悪かったから先生もショックで呼び出しづらいのか、、、とか、まぁ身の程知らずも甚だしく、心の中は邪推の嵐。

 ようやく呼ばれて中に入ると、先生の表情、雰囲気がいつもと少し違うのを感じる。
MRI検査は、まぁ横ばいですね。縮小傾向ですけどね」と、
 いつもよりずっと切れの悪い話し方。先生は正直なヒト、その表情から私達は先生の期待、思惑が外れていることを何となく察する。
 きっともっと腫瘍が小さくなっているはずだったのだろう。

 そして、5日間の抗ガン剤治療の薬、テモダールが、予定より倍以上の量に増やされた。このことが何を意味するのか、、、
 考えれば瞬く間に不安のドツボにはまり込む。

 これまで、手術、放射線、投薬治療、退院までと毎日目を見張るように順調に快復してきた。腫瘍も明らかに小さくなりつつあり、体力も快復し登り調子が続いていた。夫は目の不自由は煩わしく思いつつも、着実に元気を取り戻していた。
 治療をすれば当然、その結果良くなると思い込み、腫瘍はどんどん小さくなるに決まっていると家族みんなが期待をしていた。

 そこに、少しブレーキがかけられたまでのこと、スピードが緩やかになったまでのこと。
 悪くなったわけではないと、自分に言い聞かせ、気持ちをまた前向きに取り戻したいところだが、そうそう簡単ではない。
 まだ何も終わってもいないし、むしろこれから頑張っていかなくてはならなことも分かっているし、そこまで悲観することではないと分かってはいるけど、ちょっとでもバランスが崩れると、簡単に心が折れるのだ。


 お互い落ち込んで、不安を口にして、やっと何とか現実を受け入れ、「希望」を持たなくてはならないと頭を上げる。
これにはけっこう時間がかかる。私は特に。
 
 夫は、「まぁ、これが今やるべきことなんだから、やるしかないよな」とたくましく言い放つ。強いな。

 診療を終え、その脚でエコパオさんに。私達の様子に先生もともこさんもすぐに気がつき、心配そうにしている。
 私は事情を話し、正直に不安を打ち明ける。優しく穏やかに受け止めてくれるお二人。
 「そんなすぐに良くなるようなものじゃないよ。焦らずにさっ」と励ましてもらい、何とか元気を取り戻す。


 帰り、バアバにお迎えを頼んでいたが私達も保育園まで行ってみる。
ちょうど芽生とバアバと帰るところで、芽生は私達の姿を見つけ、ものすごく喜んでくれる。
 私はすぐに芽生を抱きしめて、そのふんわりとした感触に心から癒される。ニコニコの笑顔にも癒される。芽生のおかげで、ようやく私も笑顔になる。本当に芽生のおかげ。

 駐車場から家まで、すっかり暗くなった道を手をつないで歩く。私は芽生にぐいぐい引っ張られる。いつもこんな調子。


 そして、今日からテモダール治療第2クール目が始まった。増えた薬の量で、副作用や体力が心配だが、今日のところは吐き気もなく変化無し。
 「トッチャ、がんばれ〜」と芽生とママとで激励する。