珍道中
先のことは考えても仕方がない、と何度も何度も考え直しては、今現在の生活を大事にしてはいるけど、やはり、妄想がふくらみ不安と恐怖で落ち込んでしまうことも多い。
天性の楽観さを持っていたらこんなことはないのか、、、。でも先行きの大きな不安を抱えながらでは、そう理想的にはなかなか生きられないのではないか。
芽生は毎日楽しそうによく歌を歌っている。通園の自転車でも、お着替えをしながらでも、ご飯を食べながらでも、気ままにシャボン玉やげんこつ山のたぬきさんやお気に入りの歌をいろいろ歌い出す。体を左右に揺らして楽しそうに。
私の手を取って、「アルプスいちまんじゃく〜♪」と陽気に踊り出したりもする。
そんな芽生の姿が、私の不安を強引に外に追いやってくれているのは間違いない。その時ばかりは無心に笑顔になれるから。あまりにも可愛らしくて思わずムギュムギュと抱きしめては力をもらう。
もしも芽生がいなかったら、私の不安はきっと積もりに積もって積もれる場所も無くなってしまうほどだろう。
夫は先日、5日間のテモダール治療3クール目を終えた。
治療中は、やはりグッタリと横になっていることも多く、辛そうにしていた。薬の影響か、複視の状態も良くないとのこと。毎月のお努めとはいえ、なかなか根性のいることだ。夫は厳粛にそれに耐えているといった感じ。腫瘍へのシューティングも怠らない。
そんな夫の姿を不安な気持ちでそばで見守りながら、芽生の天真爛漫をそばで眺める。ひとつの家のなかで起こる出来事は、なんともギャップが激しく、私の気持ちも暗いだか明るいんだか、結構めちゃくちゃだ。
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治療が終わり、気持ちも楽になり体力もなんとなく快復したところで、私が担当することになった忘年会のクイズ大会の問題作りを夫が監修してくれる。
出版関係の集まりだから、ある程度の教養も試しつつ、馬鹿げた山勘問題も織り交ぜる作戦。私が作った問題に出題の順番や選択肢の駄目だしなど、手厳しいジャッジメント。けっこう楽しそう。おかげで、クイズも好評を得た。夫はそういうところセンスがいい。
今日は大量にあるリンゴを消費しようと、リンゴを砂糖で煮詰め、アップルパイを作ってみた。シナモンスティックとレモンも入れて少々大人っぽい味に。リンゴ好きの芽生が、さも喜んで食べてくれると思いきや、一口食べたらイヤイヤと。そして蒸しパンをくれ!と言ってきた。
けっこう予想外だったけど、こういうことはよくある。食わず嫌いなところがあるのだ。
こんなふうにたわいもないことも、次々と起こる毎日。
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仕事で仲良くしてもらっている先生に言われたことがある。その先生は月に何回も飛行機に乗るそうで、乱気流に巻き込まれ生きた心地のしないような体験も多く、毎回毎回恐怖と不安があった。
でも「飛行機が揺れているあいだは極度に怖がらず、本当に落ちると決まってからはじめて怖がることにしたの。じゃないとやってけないのよ」と。
私たちも現在、雲の中。揺れているし、乱気流に巻き込まれることもある。でも、まだ落ちると決まったわけではないし、雲から抜けて太陽の光を浴びることもたびたびある。
浪漫飛行とはほど遠いけれど、親子3人珍道中と言えるくらい力を抜いて行きたいところだ。