イヤイヤ応援団

 

 「トッチャ、イヤ〜!」と、芽生は最近口癖のように言う。
「一緒にお手て洗おう」と言うと「トッチャ、イヤ〜」、「一緒に食べよー」と言うと、「トッチャ、イヤ〜。ママがいいの〜」と。
起こしに行くと、「トッチャ、イヤなの〜」と朝から手厳しいこともある。

 そう言われてトッチャは最初、少し落ち込んだりしてたけど、最近はマゾ的な感覚か、芽生に「イヤ〜」と言われるのが楽しいようで、「何でだよ〜〜〜」としつこく迫ったりする。
 すると芽生はますます「イヤ〜〜!」と。でもその顔はニヤニヤし、身体をねじりながら喜んでいる。
 “イヤよイヤよも好きのうち”、とはまさにこのこと。芽生は正真正銘トッチャが大好きだ。

 その証拠に「イヤイヤ」と言いながらも、バナナやみかんを分け合って仲良さそうに食べてたり、お膝にちょこんと座ってテレビをみたり、ネコみたいに身体を延ばして寄りかかりながら歯を磨いたり。仲がいい場面がたくさんある。

 そんなふたりの騒動が、たまらなく微笑ましい。そして、ずっとずっと続いてほしい。

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 このところ、夫は細かな体調の変化がある。
目もいまひとつ調子が悪く、首が痛むとか、頭が張る感じがあるとか、左手がしびれるとか、肺のあたりが痛いとか。。。
 それは、腫瘍が関係することなのか、後遺症的なことなのか、単なる風邪っぽさか、ただの寝違いとかかもしれないけど、想像で不安が積もる。

 病状良好、気分は上々と書きたいところだけど、なかなかそうも行かないのが現実。
健康ならさほど気にせず見過ごすような体調の変化も、ひとつひとつに過敏になる。それが病気を抱えて暮らすということだ。


 そんななか、私は一日の大半を、先のことを考え不安に取り付かれて過ごすことも多く、「未来を想像して怯えるなんて時間のムダ。楽しく行こう」と、そう自分に言い聞かせるのに精一杯だ。

 夫もきっと不安と恐怖を抱えてどうしようもない時もあるはずだ。でも、それを、あまり口にしない。そして不安そうな私をいつも気遣ってくれる。
まったく、どっちが病人なんだか、申し分けなくなる。


 それにくらべて、芽生はトッチャに容赦なく「イヤ〜イヤ〜」と明るく気持ち良く言い放つ。そうやって、芽生が私の分までトッチャに活力を与え元気を与えてくれているのだ。

 そんなことを思うと、芽生の「イヤイヤ」もトッチャへの声援のように聞こえる。

 そして、今日、お風呂に入り、寝仕度を整えて3人で布団にゴロゴロしていたところ、何となく調子の悪そうなトッチャを私が心配そうにしていたのを察したのか、芽生は、
「ママと〜、トッチャと〜、メイと〜、3人で行こう!」と突然大きな声で言い出した。
なんて健気で優しい子。。。

 芽生は、どこまでもグイグイ引っ張っていってくれる、小さくてたくましい我が家の応援団長だ。