理由

 先週あたりから、夫の体調の異変が起きだした。
 このへんが痛いとか、このへんが痺れるとか、このあたりがじくじくするとか、毎日ひとつずつ増えていく痛みや不快さに煩わしそうで、さすがに表情が暗い。
 すべての症状が病気の悪化や再発に結びつくのではないかと、考えてしまう私たち。恐ろしくてたまらない。

 良いにしろ悪いにしろ、とにかく先生に診てもらおうと急遽診察に出かけた。予約無しのわりには早々と呼ばれ、診察室に。

 私たちの、眉間にシワを寄せ眉毛をハの字にした険しい表情とは対照的に、明るくにこやかないつものS島先生。その表情に少し気持ちが緩む。

 夫は最近の症状をひとつひとつ詳しく説明し、先生がそのひとつひとつに納得のいく理由と原因を答えてくれる。
 それは、残っている腫瘍付近の脳の腫れの影響だとか、傷口が補正されるときの痛みだとか、神経痛のたぐいだとか。
 そして、今、差し迫って病状が悪化しているわけではないということを、納得させてくれた。

 何の検査をしたわけでもなく、治療をしたわけでもないのに、ここ最近私たちを苦しめていた “痛み” がたちまち和らいだのは、その “理由” を知ったからだ。
 理由を知ることで、痛みも痺れも心配事だったのが納得事になる。それを受け入れざる負えないということだけど。

 切ったり貼ったりしなくてはならない病状ももちろんあるけど、理由や原因を知るだけで緩和される病状もある。
 S島先生は日本でも指折り凄腕の脳外科医だけど、メスが無くても病人を救ってくれる。素晴らしく偉大な名医だ。

 そして、本日の診察料はなんと「210円」。
 私も夫も大笑い。「210円」で心と体の “痛み” が和らぎ、安心を得たということ。そのへんのカウンセリングより激々安。しかも私の心のケアも含めれば2人分ということになる。

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 帰宅後、朝よりずっと明るい気持ちでコーヒーを飲む。

 病人とその家族の気持ちは常に一進一退。
 いつも夫を励まし元気づけられるような眩しい妻になりたいけど、少しのことでも狼狽え、どうも自分本位になってしまう。情けない。
 でも、少しずつでもタフさとたくましさを身につけて行こうと、改めて気合をいれた。

 千恵ちゃんに「とにかく、自分だけは元気でいよう!」と激励されたところだし、母にも強く背中を押されたところだし。ターコやマンゴーにも心強いメッセージをもらったところだし。
 相変わらず家族や友人に支えられ、前進している。

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 芽生も最近やたらと「なんで〜?」とか「なんで分かるの〜?」とか、何かにつけて理由を聞きたがる。

「今日、バアバが保育園迎えに行くよ!」というと「なんで分かるの〜?」とか、「パンにマーガリンぬるよ」というと「なんで〜?」とか。
 まぁ、理由を知りたいというより、かなりトンチンカンな質問だけど。。。

 何事においても、理由がある場合はそれを知ることがまず第一歩。もちろん、理由の無いこともたくさんあるけど。