仕方がないこと

 
3月25日(月)

 夫の腫瘍は、現在おとなしくしているものの、複視の状態は「テモダール治療」のたびに症状が変わり、「プリズム眼鏡」の度もおいつかない。
 複視改善のリハビリも少し効果がでているような時もあれば、悪化する時もある。相変わらず眼の症状に振り回される日々だ。

 ならば次の手をと、眼科の勧めで「オクルア眼鏡」というのを試しはじめた。片目を塞いで片目で見ることができる眼鏡。本人は右目だけで見ているけど、外見には両目で見てるように見えるというマジック眼鏡だ。

 つまりは片目で見ているのだから、複視から解放され、視界のブレはなくなるのだけど、それはそれで、やはり不便そうでもある。
 彼の少し不安定な動き方から見て取れるに。なかなか難儀な問題だ。

 最近は、左手の痺れも日常的になっているようだし、時々激しく痛むようだ。あまり口に出さないけど、それも様子から見て取れる。

 「視床」というところは、主に眼の動きや身体の感覚を司る器官なので、痺れや痛みを感じやすくなるらしい。
 先生曰くは、「波はあるけど、いた仕方がない」とのこと。

 「仕方がないこと」は増えるいっぽうだ。
 彼は、「仕方がないこと」にとくにイライラと抵抗せず、割り切って受け入れる。そんなことにも慣れきているのか。
 病気と戦いながら生活する術なのかもしれない。

 そして、不自由な眼や痺れや痛みに耐えながらも、毎日、私と芽生のために一生懸命家事をし、尽くしてくれている。
 朝は芽生をおこし、コーヒーを入れてくれ、布団を上げて、結露も拭き取る。日中は掃除洗濯、買い物、夕飯の用意など。自分なりに順序よくこなしている。
 できることを健気に粛々と。ありがたい。


 
 最近、「仕方がないこと」がもうひとつ増えた。私達が絶大な信頼をおいている主治医のS島先生が病院を移動することになった。
 この件については、さすがに夫も私も「仕方がないこと」では収まらない。ものすごく抵抗したい気持ちだ。

 脳腫瘍はもちろん、心も身体も全身ゆだねているS島先生は唯一無二の存在。夫ばかりか私にとっても完全なる主治医だ。

 毎月の外来診察は気が重いのだけど、一方で、夫も私も、S島先生に会える「楽しみ」に少し浮き足立つところもあった。診察時のお喋り、雑談、先生の明るさにどれだけ救われたことか。

 病気と戦いながら生活するには、その中でいかに「楽しみ」を見つけて笑って過ごせるかが重要だとしみじみ思う。幸い、我が家には最強の娘、芽生が “笑い袋” のような存在だけど。

 S島先生という「楽しみ」が遠のくのはとても寂しく、不安だ。「仕方がないこと」と受け入れるには、少し時間がかかるだろう。