クラゲ


4月21日(日)

 兄家族と私の両親と妹と、子ども3人、大人7人で鴨川へ小旅行へでかける。季節外れの寒さ、悪天候のなか、いちご狩りと鴨川シーワルドへ強行に。

 芽生は、大好きなイチゴ狩りとホテルでの温水プール遊びで、楽しさと興奮の絶頂。二つはなれた従兄弟のお兄ちゃんと同じ年の従姉妹と遊べることに大はしゃぎ。
 お兄ちゃんのヒデのあとにちょこちょこ着いてまわり、やることなすこと真似っこする。

 ひっぱられてひっぱられて遊び方や言動、いろんなことが成長する姿。面白くて可愛らしくて、笑いが止まらないが、興奮状態での子どもの行動は危なく、ヒヤヒヤすることも多い。
 言ってるそばで、椅子から転げ落ちる。目が離せない。


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 夫の退院以来、初めての家族旅行。
 夫は手足の痛みや痺れ、時折襲ってくるめまい、複視の症状に悩みながらもマイペースに参加する。

 日常から離れ、人と一緒に、慣れない場所で行動すること、健康な人なら何でも無く当たり前の事で、大いに楽しめることだけど、それが結構大変そう。

 慣れない場所で一緒に行動してみて分かる、彼の不自由さ。
 ひとつひとつ、探りながら、バランスを考え、自分の動き方を決めている。よろめかないよう、ムダに動かなくてもすむようにと。

 あの壮絶な手術、入院生活を終え、また一緒に暮らせること、ましてや一緒に旅行に行けるなんて、奇跡的なことと思いながらも、病気以前とは明らかに違う彼の “たたずまい” に、悲しく切なくなる。

 とても強そうで、おおらかで、豪快な立ち振る舞いだった夫が、少し小さくなって見える。

 マイペースを心がけ、夫の病気や私達家族のカタチをしっかりと受け入れていたつもりの私は、もろく、情けなく、、、
夫が病気になってしまった悔しさと悲しさを再び痛感してしまう。
きっかけは、些細でそこらじゅうに潜んでいる。そして、まんまと落とされる。

 でも一番悔しい思いをしているのは、夫のはずで。
 だけど、彼は泣き言は言わない。


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 2日目、降りつける暴風雨と寒さのなか、鴨川シーワールドに駆け込み、水族館とベルーガのショーを満喫する。

 芽生は、水槽ひとつひとつにへばりつき、
「小さいお魚と、大きいお魚。お魚さん、はいどーぞ」とお手てで餌をあげようとする。相変わらず健気で可愛らしい。

「ママぁ、タコだよ!」とクラゲの水槽の前で言ってくる。
「それはクラゲだよ」と教えると、
「タコじゃないよ、クラゲだよ!」と何度も何度も言いながら、水槽の前から離れずに、そのサイケデリックな不思議な世界を長いあいだ眺めていた。


 今回の小旅行は、子ども達の歓喜スパリゾートホテルでの休息や癒しの側面ももちろんあったが、楽しさと切なさが行き交い、晴れ晴れとしない思いが残った。

 それでも、変えられない現実、受け入れなくてはならないことに、繰り返し向き合いながら、前に進まなくてはならない。
 
 日常から離れた時、ふと客観的になる。そうやってたまに立ち止まり、考え込む事もある。きっと誰でも。


突き出たオデコと笑顔が芽生に似ている、ベルーガ