再手術

 
5月7日(火)

手術室に入り、麻酔をかけるまでの間、BGMを選ぶ事ができるらしく、夫は「ボサノバ」をチョイスするとのこと。
それが、その神聖で清潔な雰囲気と白い壁の閉塞感に、抜群にマッチするらしい。
今回もその体験をすることを、手術中の唯一の楽しみとしている。修ちゃんらしい。

今朝、芽生はなぜか5時過ぎに目を覚ました。私のソワソワに気がついているのか。

父と母と芽生とでわりと早めに病院に着くと、千恵ちゃんとヒロミもすぐに到着する。

みんなで思いっきり明るく、トッチャを手術室に送り出す。
芽生は、その時、なぜか千恵ちゃんやヒロミにおせんべいを配りたかったらしく、そのことに気を取られて、トッチャにちゃんとバイバイができない。子どもはいつもマイペース。
 
でも、なんとかトッチャのお手てにバイバイタッチをして、トッチャも満足顔で手術室に入って行った。


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手術が終わるのを千恵ちゃんと父と、眺めのいい部屋で待つ。
快晴の大パノラマは物音がほとんどせず、風景もほとんど変わらず。ビルやマンションの谷あいの木々だけが、強風でワサワサと揺れている。そこだけ躍動的なのが妙な感じ。


午後2時を過ぎたところで、婦長さんに手術の終了を知らされる。すぐにICUへ行き、まずは主治医からの説明。

手術は滞りなく予定通り、小脳の腫瘍付近をいくらか多めに摘出したと。そしてその摘出した腫瘍はやはり、転移、再発によるものだと。

私は、それは転移によるものだと分かっていながらも、もしかしたらもしかしたら、まったく別のただのおできじゃないか...と。そういう可能性もあるんじゃないかと、5%くらい期待したりしてたのだけど、やはり事態はそう甘いはずもなく、しっかりと検査結果を言い渡され、涙が溢れてきた。
少しの希望でも、破れると悔しい。



ICUで面会した夫は、思ったよりもしっかりとしている。
ひとまずホッとして、とびきりの笑顔で「おつかれさま!」と言うと、「いやぁ〜、ありがとな」といつもの修ちゃん節。
 
吐き気は無いようだけど、あちこちが痛と訴え、その対処を看護士さんに求めている。

私が「ボサノバは心地よかったかい?」と聞くと、
「それがさぁ、なんか様子がおかしいと思ったら、小田和正が流れてきたんだよ! オルゴールかなんかの!」と。
みんな大爆笑。
「だからよ、すぐにボサノバに変更してもらったんだよ!」と。

そうそう、「それでこそ我が夫だ!」と私は心の中で叫び、心底嬉しくなった。