仏よ


8月7日(水)

夫は信心深い。影響で私も少し。

我が家は夕飯前、小さな仏様にご飯をお供えし、手を合わせる。
メイは喜んで正座し、前から “ママーメイートッチャ” の順で並び、電車ごっこをしているような気分になりつつも、小さな手を左右しっかりと合わせる。

そして、皆で声をそろえ、
「今日も、ありがとうございました。メイとママとトッチャでずっと仲良く元気に暮らせますように」と唱える。
ゆっくり丁寧に唱える日もあれば、忙しくワラワラと唱える日もある。

この日課は、去年トッチャが退院して以来、三人で欠かさず行っている。バアバがいる時には四人で。

ご利益が有るとか無いとか、そんなことは関係なく、手を合わせて念じることで、精神が落ち着く。

夫は信心深い体質から、病気になる以前も、出勤の前や遠い旅行に行く前、ライブの前など、よく仏様に手を合わせていた。私はその姿を横目に見ながら、感心な人だと思っていた。

今月の外来診察前日も、もちろん、四人で正座し、手を合わせた。いつもより厳粛に気持ちを集中させて。


***


そして、1ヵ月ぶりの検査の日が来た。


結果は、予想より遥かに悪く、左小脳に大きく拡がった腫瘍群、別の場所にも点在している腫瘍を目の当たりにし、夫も私も千恵ちゃんも絶句した。
眼が点になり、しばらくフリーズした。

「なんだ、こりゃ?」
先月は姿形もなかった場所に、横に長く広く根を生やし図々しく蔓延っている。
正確には浸潤しているというのだけど。


主治医のK谷先生も、冷静に説明してくれるが「予想外の早さです。。。」みたいな雰囲気を醸しつつ、今後の治療方針についても、はっきりとしたことを言ってくれない。

ただ、今までのように手術で切除する、ガンマナイフをあてるとか、そういう場当たり的な治療は、もはやあまり意味がない(ほど早いスピードで浸潤している)という状況だけは、事実として伝えてくれる。
かなり、過酷だ。


では、どうするのか。
新薬に挑戦するか、他に何か治療はないか、セカンドオピニオンを聞きに走るか、転院するか。
来週改めて話し合うまで、しばらくはペンディングとなった。

私たちは診察室をあとにし「とりあえず、アイスでも食べよっか」と院内のコンビニに行き、これからどうなるんだろう、、、とぼんやり考えながらも、どのパフェにするか真剣に悩んだ。

3人無言で、しばらくパフェを食べた。
ソフトクリームと白桃とヨーグルトが絶妙に合い、超美味しくてうなりたくなる。


食べ終えたところで、とりあえず、いろいろ調べてみようということになる。
こんな時、医者でもないド素人の患者家族は、次の手を、治療方法を、可能性を、必死に調べて考えなくてはならない。無い知恵絞って。

どこかに「脳腫瘍よろず相談所」とかないのだろうか。。。


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帰りの車中も、夫と私は「イヤなことは後回し」状態で、『Rubber Soul』を1曲1曲丁寧に聴きながら、あーだこーだ言い合う。

「Michelle」(ポールの名曲)と「Girl」(ジョンの名曲)に挟まれた、リンゴの「What Goes on(消えた恋)」はヒドすぎるな!
とか。


The Beatles『Rubber Soul』