切り札


8月15日


夫の急な入院と、メイが先に帰省したことが重なり、
思わぬひとりぼっちのお盆休みとなった。


ヒロミが気遣ってくれ、連日泊まってくれているので、
ひとりぼっちではないのだけど。
いつも優しい義妹に癒される。



夫は、点滴と吐き気止めの効果で吐き気は少しは治まったが、
依然、頭痛は激しいようで、ほとんど起き上がることができない。

でもお昼に出たミートスパゲティは完食したと、
看護士さんも目を丸くし、
「お好きなようですね」と報告してくれた。
その後吐いてもいないようだ。


あの尋常じゃない吐き戻しを目の当たりにしていただけに、
恐ろしいほど回復(?)ぶりに、仰天する。

ふと見ると、シーツにミートソースの塊が落ちていて、
苦笑してしまった。



昨日、部長の赤羽先生から、現在の病状、今後の治療について話されたこと、
とても惨く、厳しく、受け入れ難く。
悲しいやら悔しいやら、私は、ものすごく取り乱す。


腫瘍の浸潤はかなり進行しており、ほとんど手立てのないステージに入っていると。
だけど、最後の切り札、「アバスチン」という最近認可された新薬を試すか否か。
絶対の効果があるわけではないらしく、
賭けでもあるが、やってみるほかない。


「アバスチン」は、つい7月頃に、脳腫瘍に対して厚生省認可の下りた新薬だ。
それまでは自由診療ということで、莫大な費用がかかるので、
庶民には手がでないところだったが、
なんと、ラッキーなことに、我々でも手が出せる薬となった。


私達は、苦難のなかにも、強運とかラッキーが付いてくることがしばしばある。
そこが修ちゃんの奇跡的な性質なのかもしれない。


***


夕方、相変わらず頭痛が治まらず、うずくまっている夫を囲み、
ムーさんとヒロミと私で談笑する。
ムーさんのサマソニ話やアイドル話、エトセトラ。


私はたまに「うるさい?」と夫に聞くと、
「いや、楽しい。」と言ってくれるので、
普段どおりに、くだらない話をどんどん続けた。