小さく優しい声
9月12日(木)
毎日、昨日より今日は良くなってますように.....と、願いながら病院へ通うが、その願いはなかなか現実のものとはならない。
今週に入って、さらに状況が変わる。
目に見える変化が、思いの外ペースが早くて、私はそのペースに気持ちがついて行けず、夫を目の前に、気がつくと目頭が熱くなる。
緩和的な処置が進み、痛みのコントロールが上手くできている反面で、さらに眠気は強くなり、私やお見舞い客が来ていてもあまり目を覚まさない。
時々、食べ物を欲しがると、こちらも嬉しくて進んであげようとするが、固形物はほとんど上手く飲み込めず、呼吸が苦しくなってむせ返り、口の中のものを取り出し吸引するという騒動になる。
本来食いしん坊の夫だから、少しでも味あわせてあげたいところだが、誤飲のために肺炎になっている可能性があるので、そう勝手なこともできない。
大きな目を見開いて、涙ながらに苦しそうにする顔が、可哀想で、切なくて、たまらなくなる。
*
記憶の混乱も目立ち始め、夫はいろんな時代と場所と状況に、タイムスリップしているようだ。
花火の準備をしなくてはとか、マイクにスピーカーをうんぬんかんぬんとか、明らかに今いるベッド上のことではないことを口走るが、
私はそんな言動にはさほど驚かず、適度に話を合わせて、彼とできる会話を楽しむようにする。
とにかく彼とコミュニケーションが取りたくて、何でもいいから話をしたい。
私は彼が言い出す事を、面白く突拍子もない発言を、心から楽しみにしている。
***
今日は、また少し昨日とは様子が変わり、声が出しにくくなっていた。
太く大きくバリバリとした修ちゃんの声が、小さく細くかすれた声になり、声を出すのも辛そうに。
それでも、大阪から来てくれた佐代ちゃんや、福岡へ里帰りするユキちゃんに
「気 を つ け て な」と小さな声で激励する。
その小さくかすれた声も、やっぱり温かく優しい修ちゃん声だ。
そして、家に帰る私にも「ま り 子 も 気 を つ け て な」と優しく微笑んでくれる。
優しさ溢れる彼の人柄は、どんなときでも変わらず、感動する。
そして心から尊敬する。
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ギターを弾く猫のTシャツを着て、小さくかすれた声を出す修ちゃんも、なんだか可愛らしくて、とても愛おしい。